その年の春先から、かぐや姫はどうしたわけだか、月のよい晩になると、その月を眺めて悲しむようになりました。それがだんだんつのって、七月の十五夜などには泣いてばかりいました。翁たちが心配して、月を見ることを止めるようにと諭しましたけれども、
「月を見ずにはいられませぬ」
と言って、やはり月の出る時分になると、わざわざ縁先などへ出て嘆きます。翁にはそれが不思議でもあり、心がかりでもありますので、ある時、そのわけを聞きますと、
「今までに、度々お話しようと思いましたが、御心配をかけるのもどうかと思って、打ち明けることが出来ませんでした。実を申しますと、私はこの国の人間ではありません。月の都の者でございます。ある因縁があって、この世界に来ているのですが、今は帰らねばならぬ時になりました。この八月の十五夜に迎への人たちが来れば、お別れして私は天上に帰ります。その時はさぞお嘆きになることであろうと、前々から悲しんでいたのでございます」
姫はそういって、ひとしほ泣き入りました。